ある日突然、スピードメーターの針が大きく振れるようになった。ボンネットバスに乗った記憶のある私などの世代には、ぶるぶる激しく振動するシフトレバーとともに、懐かしい動きではある。とはいえ、これを放置していると、いつかスピードメーターが壊れるかもしれない。 40km/h以上ではピタリと安定し、振れる気配もないから、しばらくそのまま乗り続けていた。それを何とかしようと重い腰を上げたのは、やはり、フロントまわりの振動対策としてである。針が振れる←回転にムラがある←周期的に抵抗が増減している…と推論したというわけだ。 真っ先に疑ったのはメーターギアだった。1970年代のTX650やGX500などは、こいつがよく壊れた。ギアのナメ、焼きつき、ブッシングの飛び出しなど、いろんなトラブルがあった。中には明らかにホイールの回転が重くなる事例もあり、そんな経験をしていたから、今回、スピードメ ーターギアを疑ったのである。 で、まずはホイールを取り外し、ケーブル+ギアボックスがメーター本体から垂れ下がった状態にし、ドライブギアの切り欠きに爪を引っかけて回してみた。すると、ドライブギアが1回転する間に何度か、抵抗が大きくなる箇所があった。 さっそくメーターギアをバラすべくケーブルを外した。ぜっかくケーブルが外れ、ギアボックス単体にな ったのだから、ここでもう一度回してみていればトラブルシューティングができ、回り道をせずに対策できたのに…と思うと悔しい。 バラしたギアは、推定10万km以上 |
| 使っているのに、ドライブ/ドリブンとも、気になる摩耗はほとんどなかった。ただ、ドライブギアのスラストクリアランスが少々大きすぎる気がしたので、ドライブギアの両側面に接触するワッシャの外側に、それぞれ0.2mm厚のシムを入れた。 各構成パーツの摺動面にスレッドコンパウンドペーストを塗り、ドライブギアの外周とハウジングの間に隙間容積の 1/3程度の量のリチウムグリスを詰め込んだ。組み立てて回してみると、気持ちよくスムーズに回ったので、所定の位置にセットしてホイールを取りつけ、ケーブルを装着して作業終了とした。 ここにもまた、詰めの甘さがあったと、あとで思った。ギアボックス単体での作動チェックだけでなく、ケーブルを取りつけた状態でチェックしていれば、ギアではなくケーブルに問題があると気づいたはずだ。 そんなわけで、しばらくの間、ギアを直したのに振れが直らず、気にはなるけどとりあえず動いているから気にしないでおこう…的な気持ちで乗り続けていた。まったくいい加減なメカニックである。 実を言うと、メーターの針の振れの多くが、ケーブルの回転ムラに原因があるのは知っていた。なのにそれを疑わなかったのは、ちょうど、振れが出はじめる少し前に、珍しくスピードメーターケーブルを清掃/給脂したからだった。つい最近清掃/給脂したばかりだから、ケーブルが原因であるはずがない…という思い込みが諸悪の根源だった。 どうやら、10万kmほどノーメンテで使い続けたメーターケーブルは、 |
| 突然の清掃/給脂によって、芯に伸びを来したらしい。この“伸び”によって、芯と管の長さの差が大きくなり、管の上端をメーター/下端をギアボックスに固定したときに芯が底突きし、曲がっていたようだ。 曲がりによって、芯が管の内側に強く押しつけられて抵抗が増え、少しくらいドリブンギアが回っても、芯がねじれるだけで、その回転がメ ーターに伝わらず、しかし、あるところでねじれが限界に達し、抵抗に打ち勝って急激に復元し、その瞬間に“ビョーン”と高い速度で芯が回り、メーターの針をピョコンと動かす。そしてまた、抵抗のせいでしばらく動かない…と、この繰り返しが振れの原因だったに違いない。 原因が予想できれば対策は簡単。芯を短くすれば良いだけだ。芯の切断にはサンダーを使った。どれくらい切れば良いかわからないので、とりあえず下端を3mmほどにした。 メーターケーブルの芯はワイヤーロープと同じく、細い線を束ね、捻 って作られている。メーターとドリブンギアに嵌め込まれる端部のみ、外形が四角くプレスされている。 この部分を、ささくれないように切るためには、細かい砥石を使い、高速回転させるのが良い。そう思って慎重に作業したのに、細い線が2本ほど“さかむけ”状に飛び出してしまい、見苦しくなってしまった。 だが、この恥ずかしい見かけとは裏腹に、芯のカット効果は絶大で、どんな速度ででも、ピクリとも余分な動きはしていない。やはり、スピ ードメーターの針がスムーズに動くのは、とても気持ちのいいものだ。 | |