62 ベルギーに向かう

シャモニーからブリュッセル郊外のアールストへ向かうには
ジュネーブからディジョンに出て
ナンシー、メッツ、ルクセンブルク経由のルートと
来たときのコースを逆にたどってドイツに入り
ストラスブールからメッツに向かうルートの2通りがある。
前者のほうが40kmほど長い代り、全区間高速で、国境もない。
しかし、フランスの高速は有料区間が多いので、後者を選んだ。

本格的なクルージングに移る前に
シャモニーの街の最も奥(スイス寄り)にあるガソリンスタンドで
給油とオイルの点検を行った。
1リットル当り5.19フラン(約101円)のSans-Promb 98が
55.30リットル入って287フランスフランだった。
オイルは、レンタル開始以来交換も補充もなしで
7000kmほど走っているのに
量にも色にもまったく問題なし。
いよいよ長距離連続走行の始まりだ。
モンデオの積算計は12788kmを示していた。

シャモニーを出てすぐに峠を登り、スイスに入って急坂を下る。
来たときの薄暗かった景色が、夏の太陽に照らされてまぶしく光る。
空をバックに偏光フィルターを使って撮れば
色彩とコントラストが誇張された
ドイツの絵葉書のような写真が撮れるに違いない。
1時間弱のドライブでマルティニーに到着。
ここからストラスブールの対岸でライン川を渡るまで
約350kmの区間、アウトバーンはつながっている。


シャモニーからベルギーへは
来た道を引き返して2つの峠を越え
マルティニから高速に乗った。
スイスのアウトバーンを220km
ドイツのアウトバーンを128km走り
オッフェンブルクでの先で
ライン川を渡って
ストラスブールから
再びフランスに入り
オートルートを220km走ると
ルクセンブルクに入る。


バーゼルからドイツに入り
通い慣れたアウトバーン[A5]をOffenburg まで行き
そこで一般道に降りてライン川を渡る。
バーゼル〜ストラスブール間は
ライン川が独仏国境になっているため
橋の手前でドイツを出国し、向こう側でフランスに入国する。

クルマを停めたりすると渋滞するので
国境警察官も税関の職員も、小屋から出てこようともしない。
橋を渡ってすぐのところからオートルートに乗り
ストラスブールの市街地を迂回してメッツ方面に向かう。

何トンまでの船が航行できるのだろう…。
オートルートから見下ろすストラスブールの港には
遠洋に出かけるのではないかと思うほど
大きな船が停泊している。
EC(EU)のルーツとなった欧州石炭鉄鋼共同体発祥の地
ストラスブールは
多くの共同体機関が置かれる、ECの重要な町だ。
ここからからルクセンブルクを経てブリュッセルとは
まさにECの中枢を行くルートではないか…

しかし、ひとたびストラスブールの町を外れると
オートルートはアルザス、ロレーヌ地方の
のどかな農村風景の中を進む。
ブドウ畑の緑と小麦畑の肌色が交錯する地表には
ところどころにヒマワリ畑の黄色が彩りを添えている。


初夏のヨーロッパのけしきに
いろどりを添えるヒマワリ畑。
空から見て、地表が黄色いのは
たいていこれだ。
飼料と搾油がメインだが
スペインなどでは
人間も好んで、種の中の
米粒より小さな胚を食べる。


ライン川と並行するヴォージュ山脈を越えると
景色はやや変わり、肥沃な田園地帯にさしかかる。
ブドウ畑に代って緑の森が姿を現わし
やがてメッツの工場地帯が見えてくる。

メッツはこの地方の交通の要衝だ。
東西南北のオートルートが交差し
北に向かうとルクセンブルクを経てブリュッセルへ
東に向かうとストラスブールを経てドイツへ
西への道はまっすぐパリへ向かい
南はナンシー、ディジョンを経てリヨンへとつながっている。
地名が白文字、道路番号が赤印で書かれた紺色の大きな標識に従って
ボクはルクセンブルクへ向かう[A31-E25]に乗り換えた。


オートルートの標識も
アウトバーンに負けないくらい大きい。
行き先や出口の案内だけでなく
沿線の景勝地や特産物を
茶色地に白一色で描いた標識が
単調になりがちな
連続高速ドライブを
楽しくしてくれる。


メッツあたりでガソリンの残量がわずかになってきた。
[A31]に入る頃には
残り10リットルを切ったことを示す赤ランプが点灯するが
ガソリンの安いルクセンブルクまで我慢することにした。
16時40分。シャモニーを出てから6時間。
610kmを走ったところで
ルクセンブルクに入って最初のパーキングエリアで給油した。

59.00リットルで1333.4ベルジャンフラン。
1リットル当り22.6ベルジャンフラン(約71円)だから
フランスはもちろん、スイスやドイツと比べても20円程度安い。
ルクセンブルクのガソリンスタンドや
パーキングエリアの売店にある
酒やタバコ売り場がいつも混んでいるのは
この税金の安さが原因だ。EC統合でこれもなくなるのだろうか?

ガソリンを入れ終わって、M嬢に電話した。
すると「予定が変わって
今日これからカタルーニャに向けて出発する」
…と言うではないか。つまり、今夜のデートは中止である。
ガ〜ン! ここまでの610kmは何だったんだ…。
ルクセンブルク〜ブリュッセル間は200kmちょっとしかない。
彼女の出発が“すぐ”ではないことを確認して
ボクはブリュッセルに向かうことにした。