58 ライン川に沿ってスイスへ

昼食を済ませたわれわれは
バーゼルまでのアウトバーンを飛ばしに飛ばす。
120km/h 制限のオランダで溜まったフラストレーションは
ドイツに入って間もなく解消。
自国内ではおとなしいオランダ人も、負けていない。
ドイツナンバーのクルマに混じって
国境を超えた途端に 200km/h 近いスピードで爆走する。

フランクフルト近くで南に進路を変え
[A5-E35]に入ってしばらくは
ドイツのアウトバーンでも最も道幅の広い区間だ。
片側5車線のその区間で
190km/h+しか出ないモンデオでは
端から4車線目を走るのがやっとのこと。
最も中央寄りの車線は、250km/h を超えそうな
高性能車の専用レーンだ。

メルセデスのSやSLクラスをはじめ
一目でチューニングしてあるとわかるBMWの5シリーズなど
この区間でしかお目にかかれないクルマが
あっという間に近づいたかと思うと
瞬時にわれわれを抜き去って行く。

真ん中から一つ右の車線は
アウディやプジョーの上級機種、ミディアムクラスのメルセデス
BMWの5シリーズなどが主流で
それより遅い大衆車であるモンデオは
彼らが後ろにいないのを確認して
ちょっとだけ走らせてもらうといった感じ。
しかし、そんなテストコースみたいな区間も
ハイデルベルクまでで
そこから先はほとんど片側2車線のままバーゼルに達している。

“Reisen nicht Rasen”=旅は疾走ではない
という標語の看板とともに
渋滞する追い越し車線と
空いている走行車線の絵とともに
“und Sie?”という問いかけが書かれた
ポスターが立っている。


当時のアウトバーンで
よく見かけた『Und Sie?』ポスター。
片側2車線の区間で
交通量が多いときなどは
あのドイツでさえ
この絵のような状態になることが多い。
しかし、どんなに追い越し車線が混み
走行車線がすいていても
走行車線から追い越していく
悪質なクルマは1台もいない。


前者はもちろん、スピードの出し過ぎを
たしなめるキャンペーンだが
後者は“用もなく追い越し車線を走るな”
といった意味合いであり
日本の高速道路にもぜひ設置してもらいたい。

シュヴァルツヴァルトに連なる
うっそうとした森の中を抜けたかと思うと
教会の尖塔やなだらかな山をバックに
小麦色の畑が波打つ、ライン川沿いの
平和なドイツの農村風景の中を走る。

何度かこれを繰り返していると
やがて右側からライン川が近づき
まわりの畑や民家の数が減り
替わって果樹と思しき樹木が増えてくる。
そして、遠景の山々がしだいに輪郭を
くっきり浮かび上がらせる頃
アウトバーンはドイツの南西端の町
ヴァイル・アム・ラインに入る。


オランダ/ドイツ国境から
ドイツ/スイス国境に行くには
いろんなルートがあるが
このときは最も走り慣れた
[A3]、[A5]を走った。
どちらも、10〜20kmの間隔を保って
ライン川に併走しているが
[A3]は、なだらかなカーブと
アップダウンが多く
[A5]は、直線的に、ライン川と
シュヴァルツヴァルトの間の
農村地帯を突っ切ってゆく。


バカンスシーズンには
激しい渋滞が起きるのだろう。
何kmも手前から、赤い丸の中に黒の横棒が入り
その上下にドイツ語で[ZOLL]
フランス語で[DOUANE]と書かれた標識と
赤い▽の中に“I”の文字が入り
[STAU]と書かれた標識が現われる。

さらに進むと、スイスの“高速道路年間通行料”を
すでに払った車を左側車線
まだ払っていない車を右側車線に誘導する標識がある。

われわれはもちろん右側車線だ。
お姉さんが近づいてきて
30スイスフランまたは40ドイツマルクを徴収し
フロントガラスの内側に
高速道路のマークと年度を示す数字が入った
5cm四方くらいのステッカーを貼ってくれる。
これを貼っていれば、翌年の2月末まで
スイス国内の高速道路を何度でも自由に走れるシステムだ。

通行料を払うと同時にドイツからの出国とスイスへの入国が完了。
税関の建物を過ぎたところには、どこの国境にもあるように
ガソリンスタンド、レストラン
インフォメーション、銀行などが並んでいる。
売店に入って、水とおやつを買ったわれわれは
休む間もなくスイスのアウトバーンを走りだした。