酒に味や香りがあるように、空気にも味や香りがあり、酒に温度や透明度
や重さなどが感じられるように、空気もまた、それらを感じさせてくれる。
気温、湿度、気圧、それに風向、風速などといった数字で表わされる要素
の他に、五感を駆使すれば、透明度、音の響きかた、光の通りかた、香りの
漂い具合、肌触りなど、四季折々、時々刻々に変化する味わいを、まわりの
空気から得ることができる。
春の暖かい空気も心地良いが、秋の冷たい空気も得難い魅力を秘めている。
不思議なことに、それが秋の空気だというだけで、春の空気よりも圧倒的に
透明度が高く、静かで、光の通りが良いようだ。
晩秋の礼文島、船泊湾。あたりをとり巻いていたのは、そんな、寒くはな
いが十分に冷たく、まるで振動するのを忘れたかのように静かで、何億光年
も彼方にある星のまたたきさえ見えるのではないかと思うほど透き通った空
気だった。
そんな空気に包まれて、船泊湾に臨む高台から見上げた空は、まるでプラ
ネタリウムのように円く、それでいて無限の広がりを持ち、湾内の水面は、
まるでその上にある空気に圧されたかのように静まり返っていた。
撮影地:礼文島(北海道)
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